1、東京、下目黒4丁目920番地、秋、正午。
きょうも、隣りの家からテレビの音が聞こえる。
家庭の主婦ならだれでも見ているお昼のケンコウ番組だ。わたしも、あわててケンコウ番組にチャンネルをあわせる。
この原田の家は、わたしの、今年92歳になるおばあちゃんの家だ。
おばあちゃんは、ひとり住まいだ。
おばあちゃんは、少々ボケている。
きょうは、いつも泊まりのヘルパーさんが、休暇をとったため、わたしがおばあちゃんの世話をしにきたのである。
小さい頃からおばあちゃんっこだったわたしにとって、おばあちゃんに会えるのは、子供のいない専業主婦のわたしの息抜きであり、安らぎでもあった。
きょうは、やけに隣りの家のテレビの音がうるさい。
おじいちゃんがいけないのだ。